相続対策とは「何かをすること」ではなく
「全体を設計すること」
対策をしたはずなのに、新たな問題が出てくる。
そういうケースに共通しているのは、「個別に対策をしている。」です。
相続対策は、一つひとつの対策を積み上げるものではありません。まず「全体を設計する」ことが重要です。——今日は、その話をします。
相続対策は「設計図」から始まる
相続対策を、建築に例えてみます。
家を建てるとき、最初にするのは、工事ではなく設計図をつくることです。敷地の広さ、家族の人数、どんな家に住みたいか——そうした情報を細かく把握した上で、設計士が全体の設計図をつくる。その設計図があって、はじめて工事が始まります。
設計図なしに工事を始めたら、どうなるでしょうか。それぞれの職人が自分の仕事はきちんとやっていても、全体としてちぐはぐになってしまいます。
相続対策もまったく同じです。
→ 家族の状況・財産・意向を把握し、全体の方向性を決める 相続対策(施工)
→ 設計図に基づいて、節税・遺言・法人化などを実行する
全体設計なしに対策を始めてしまうと、それぞれの対策が「正しい」ものであっても、全体としてつじつまが合わなくなってしまいます。最悪の場合、「対策しなかったほうが良かった」という結果になることさえあります。
全体設計には「全体把握」が必要
設計図をつくるために、設計士がまず何をするかというと、情報収集です。敷地の広さ、家族の人数、生活スタイル、予算——あらゆる情報を細かく把握します。それをせずに設計は始められません。
相続も同じで、全体設計のためにはまず「全体把握」が必要です。私が最初に行うのはヒアリングです。
家族構成、お住まいの状況、財産の状況、それぞれの意向や困りごと——これらを丁寧にお伺いします。一見、相続に直接関係がなさそうなことでも、遠慮せずに聞くようにしています。なぜかというと、全体把握が細かければ細かいほど、その家族に合ったオーダーメイドの全体設計ができるからです。
感情面や家族の関係性についても、できる限りお聞きします。相続は「制度」だけでなく「感情」の問題でもあるからです。(このシリーズの前回の記事でも触れましたが、感情への配慮は相続対策の核心です。)
部分対策の落とし穴①——節税目的のアパート建築
全体設計なしに進めてしまいがちな対策の例を、二つ紹介します。
一つ目は、節税を目的としたアパート建築です。
更地に賃貸物件を建てることで、相続税評価額を下げる効果があります。これ自体は有効な対策です。私もお勧めしている対策の一つです。
しかし、「節税」という一点だけを見て判断してしまうと、後々想定外の負担が生まれることがあります。
・空室リスクをどう管理するのか
・そのアパートを将来、誰が引き継ぐのか
・相続発生後の権利関係はどうなるのか
不動産は一度建ててしまうと、権利関係を簡単に変えられません。「節税になるから」という理由だけで進めてしまい、後から「果たしてこれが最善だったのだろうか」と後悔するケースを、私は何度も見てきました。
収益不動産を持つことは、相続においてとても有意義な選択です。しかし、その対策が全体設計の方向性と合っていなければ、むしろ問題を増やしてしまうことになります。
部分対策の落とし穴②——納税に追われた遺産分割
二つ目は、相続税の納税期限に追われた遺産分割のケースです。
相続税の申告・納付期限は、相続発生から10ヶ月以内と定められています。一見、十分な時間があるように感じるかもしれません。しかし実際は、戸籍の調査、必要書類の収集、家族会議の開催——やることは山積みで、気づいたときには残り時間が少なくなっているというケースがほとんどです。
そして最も重要なのが、遺産分割協議がきちんとまとまるかどうかです。相続税は、各相続人が受け取る財産が確定しないと税額が計算できません。期限に間に合わなければ、延滞税が加算されるケースもあります。
こうした状況の中で、「納税に間に合わせるために」という理由で、税理士が金銭的な合理性だけを優先した分割案を作成し、感情的に納得のいかないまま遺産分割協議書にサインするケースがあります。
金銭的な合理性だけで分割を決めてしまうと、後に感情的なしこりが残ります。これは、事前に全体設計をしていなかったことが根本的な原因です。
まとめ|相続対策の正しいステップ
相続対策は「何かをすること」ではなく、「全体を設計してから進めること」です。
個別に対策を積み上げていくと、どこかで無理が生じ、トラブルにつながります。そうならないために、きちんとした順序で進めていくことが大切です。
家族構成・財産状況・意向・感情面まで細かく把握する
現状の問題点と将来起こりうるリスクを整理する
家族全員が向かうべき方向性と、具体的な対策の計画を立てる
計画に基づいて、節税・遺言・法人化などを順序立てて進める
状況の変化に合わせて計画を見直し、必要に応じて対策を修正する
このステップを踏むことで、家族全員が状況を把握し、意見を共有し、同じ方向を向いて進んでいけます。全体像をきちんと掴むことで、「この対策にはどんな意味があるのか」が初めて見えてきます。
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