「相続の話を切り出したら、
結局最後は言い争いになって終わってしまったんですよ……。
もう二度と、家族であんなことになりたくないです。」
肩を落として話す大家さんの表情は、
何とも言い難いさみしい表情です。
こんにちは。相続コンサルタントの宮川です。
本来、家族は信頼し合えるはずの存在です。
それなのに、
なぜ「相続」という現実的な問題になった途端、
それまでの穏やかなリビングが一変し、
鋭い言葉が飛び交う
「争い」になってしまうのでしょうか?
実はこれには、
避けられない理由があるのです。
家族という「情」で結ばれた関係性の人達で
利害が関係する「相続」の話を冷静に進めるには、
構造的な「問題」があるのです。
今日は、多くの大家さんが直面する、
家族会議を阻む「6つの壁」について、
お伝えしていきたいと思います。
壁1:埋まらない「情報の格差」
第一の壁は、
オーナーであるあなたと、ご家族との間にある「圧倒的な知識の差」です。
あなたは日々現場の最前線で
「空室をどう埋めるか」
「あの修繕をいつ行うか」
「固定資産税の支払いをどう工面するか」
と頭を悩ませてきました。
しかし、
ご家族にとってアパートや駐車場は
「毎月通帳にお金が入ってくる魔法の箱」のように
見えているかもしれません。
経営の苦労、借入金の重圧、入居者トラブルのストレス。
これらを共有していない家族との間には、
前提となる情報に巨大な溝があります。
土俵が違えば、議論は噛み合いません。
「なぜ分かってくれないんだ?」
というあなたの嘆きと、
「難しすぎて分からない」
という家族の困惑。
この断絶が、最初の不和を生みます。
さらに、
不動産賃貸に関係る情報だけでなく、
そもそも、家族であろうと、個々の人がもっている「常識」は、
それぞれ全く違います。
「家族なんだから同じ価値観や常識を持っているし、
話せばわかってくれるはず。」
という
仲の良い家族だからこそ描いている、ある種の誤った先入観が先走りしてしまいます。
壁2:不動産への「思い入れ」が生む、残酷な温度差
「この土地は、じいさんの代から守り抜いてきたものなんだ」
そんなあなたの熱い想いに対し、
ご家族の胸の内にあるのは、
「相続したら、誰が草むしりをするの?」
「古いアパートの管理なんて、自分たちはやりたくない。」という、
冷ややかな現実感かもしれません。
あなたが守ってきたのは「歴史」であり、
ご家族が見ているのは「未来の負担」です。
この「情熱」と「負担感」の温度差を無視したまま、
「守るのが当たり前だ」という
正論を押し通そうとすると、
家族の心は驚くほど速く離れていってしまいます。
この「思い入れの格差」を前提に協議を進められるか?
それとも、その格差を埋めてから話し合いに進んでいくのか?
とても重要なポイントになります。
壁3:時代の変化が生む「常識のズレ」と意図の空回り
「不動産さえ持っていれば一生安泰」
と言われた時代がありました。
しかし、
今の日本では必ずしも正解ではなくなっています。
人口が減り、建物が老朽化し、税制が厳しくなる現代です。
「良かれと思って遺したい」という善意が、
次世代には
「負担になるかもしれない・・。」
という不安になってしまうことがあります。
時代背景が異なる者同士が、
自分の「常識」や「正論」をぶつけ合っても、
そこには悲しいすれ違いしか生まれない場合があります。
高度経済成長期で人口がどんどん増える時期と
超少子高齢化が進み人口が減少し物があふれかえっている現代
とではとるべき選択肢が全く異なります。
この様な価値観の違いをきちんと理解したうえで
承継の話ができればきちんと話が前に進んでいきます。
壁4:「私が正しい」という家族特有の「あまえ」
家族という近すぎる関係は、時に「客観性」を奪います。
「お父さんはいつも自分勝手だから」
「お前はまだ若くて何も分かっていない」――。
話し合いの前から、
家族に対して「どうせこうだろう」という固定観念をもっていませんか?
家族という近すぎる関係性であるがゆえに、相手の言葉を素直に受け取れず、
内容ではなく「誰が言ったか」に反応して感情的に反発してしまう。
この固定観念が、
問題解決のために必要な選択肢を排除してしまう場合があります。
この固定観念に関してはとても難しく、
それぞれがきちんと個々を尊重して話し合いが行われないと
本来進むべき道筋から大きく脱線してしまう事があります。
壁5:過去の「力関係」で話し合いが進行される。
リビングで行われる家族会議には、見えない「席順」があります。
子どもの頃から蓄積されてきた
「厳しい父と従順な子」
「要領の良い兄と我慢する弟」。
など、長い間家族として過ごしてきた時間で蓄積された役割のまま、
話し合いが進められて、数億円の資産の行方を決めようとするのは非常に危険です。
「お父さんが言うなら仕方ない」という沈黙の合意や、
「俺が長男なんだから他の人は黙っていろ」という抑圧。
関係者全員が心から納得していない「形だけの決着」は、
いつかどこかで、マグマのように噴き出すことになります。
家族会議を進めるうえで必要不可欠なのは
誰もが気兼ねなく自分の意見を共有できる
ルールを作ることのです。
壁6:そもそも「賃貸経営を嫌っている」という根本的な拒絶
これが最も直視しづらい、しかし避けて通れない壁です。
世の中には、不動産管理を「面倒くさい。」「関わりたくない。」と
生理的に避けている方が一定数存在します。
不動産の仕事をしてきた私からすると
「とてももったいない。」と感じてしまうのですが・・。
もしあなたのご家族の中に、
賃貸経営業そのものに嫌悪感や強い不安を抱いている方がいた場合、
いくら「経営の引き継ぎ」や「節税」を説いても、
心に響くことはありません。
この「本音」を隠したまま進む話し合いは、いつか必ず破綻します。
こういうケースで有効なのは、
資本主義経済の原則である、「資本と経営の分断」です。
賃貸経営を事業と捉えて、
資本と経営という役割分担を明確にして管理組織を構築していくことで
この問題はよい方向へ進んでいきます。
【まとめ】第三者は「通訳者」であり「防波堤」
こうした6つの壁を、家族の力だけで乗り越えようとするのは、
いわば
「麻酔なしで手術をする」ようなものです。
あまりに痛みが強く、耐えきれなくなって当然なのです。
だからこそ、
利害関係のない第三者であるコンサルタントが必要なのです。
私は、あなたの「想い」をご家族の言葉に翻訳し、ご家族の「不安」を数字で解き明かす「通訳者」になります。
また、感情が爆発しそうになった時は「防波堤」の役割を担います。
話し合いを「感情のぶつかり合い」から「未来への経営会議」へと導きます。
「親子」の話を、一族の「事業承継」へと昇華させること。
それが、あなたが守ってきた財産と、
それ以上に大切な「家族の絆」を両立させる唯一の道です。
もし今、話し合いが止まってしまっているのなら、
それはあなたたちの家族愛が足りないからではありません。
ただ、適切な「場」と、信頼できる「伴走者」がいないだけなのです。

▶︎次回の記事:不動産を「分ける」のではなく「箱」で遺すという選択肢




