「あなたのパスワードが漏洩しています」
その日から、私のまわりで奇妙なことが起き始めたのです。
今日は、私に起きた出来事をきっかけに学んだ「デジタル遺品への備え」についてお話しします。
ある日届いた、1通のセキュリティー警告メール
そのメールには、私のパスワードが外部に漏れていると書かれていました。対象は、合計15個です。
一瞬、血の気が引き、すぐに内容を確認しました。
幸い大事なパスワードではありません。どれも、ちょっとした会員登録に使っていたものばかりです。
「まあ、大きな被害はなさそうだな」——そのときの私は、少しほっとしていました。
立て続けにかかってきた、不審な詐欺電話
ところが、話はそこで終わりません。メールが届いてから、知らない番号からの電話が立て続けにかかってくるようになったのです。
・「金沢郵便局の〇〇です」と名乗る電話
・「新宿警察署です」と名乗る電話
・何も言わずに私の氏名を確認し、すぐに切れる電話
確実なのは、氏名と電話番号が知られているということ。
リストが漏れているのか?——実際のところはわかりません。
どれも、私にはまったく心当たりがありません。
何者かが、悪意を持って動いている——そう感じるしかありませんでした。漏れた情報がどこかでつながり、「狙える相手かどうか」を探られているような、嫌な感覚です。
※警察や郵便局を名乗る電話でも、こちらから個人情報を伝える必要はありません。不審に思ったら一度切り、公式の番号にかけ直して確認してみてください。
パスワード変更に四苦八苦して、気づいたこと
私は、漏れた15個のパスワードをすべて変更することにしました。
これが、思っていた以上に大変です。
そもそも、サイトが閉鎖されているケース。パスワードの変更機能がサイト上に存在しないケース。
「確認コードがスマホに届く……。」
「これ、そもそもまだ使ってるんだっけ?」
などなど、戸惑うことばかりです。
ひとつひとつ思い出しながら、確認して、変更する。本人の私ですら、結構手こずります。
そのとき、ふと思ったのです。
もしこれが、私のいなくなった後だったら。
家族は、この作業をどうやってやるのだろうか、と。
相続診断士の集まりで出会った、デジタル遺品のプロ
そんななか、相続診断士の集まりで、ひとりの若い事業家さんと出会いました。
デジタル遺品整理の事業をされている、株式会社GOODREI 代表取締役の末吉謙佑さんです。
パスワードの管理に苦労した直後だったので、末吉さんのお話はすっと胸に入ってきました。さっそく著書も読んでみました。
読み終えて、とても腑に落ちた感覚がしました。
家族がデジタルの情報を共有していないと、相続のときに本当に困ったことが起きる。自分が味わったばかりの苦労を思えば、その意味がよくわかりました。
デジタル遺品とは——「見えない財産」が家族を困らせる
デジタル遺品とは、スマホやパソコンの中のデータ、ネット銀行やネット証券の口座、サブスクの契約など、デジタルの形で残される財産や情報のことです。元気なうちにこれらを整理し、家族に伝えておくことを「デジタル終活」と呼びます。
土地や建物、預金通帳は、目に見えます。デジタルの財産は、そうはいきません。
本人しか存在を知らない財産が、スマホやパソコンの中に眠っている——ここがデジタル遺品のいちばん難しいところだと、私は感じています。
スマホのロック
中に何が入っているかわかっていても、ロックが解除できなければ家族は開けられません。
ネット銀行・ネット証券
通帳や郵便物がないため、口座があること自体を家族が知らないままになることがあります。
サブスク・自動引き落とし
解約されるまで、毎月の支払いが続いてしまいます。
大家業のやりとり
家賃の入金口座、管理会社とのメール、入居者の情報。大家さんの場合、スマホの中に「事業」そのものが入っていることも少なくありません。
写真や思い出
お金には換えられないものも、デジタルの中にあります。
大家さんのご家族にとって、とりわけ気をつけたいのは4つ目だと思っています。相続は「財産を分ける」だけでは終わりません。家賃の管理や入居者対応は、その翌月からも続いていくからです。
デジタル遺品に備えていない家族、備えている家族
同じ「デジタル遺品」でも、備えがあるかどうかで家族の負担は大きく変わります。
スマホが開けず、中身がわからない
口座やサービスを一つずつ探すことになる
引き落としが何か月も続いてしまう
家族が途方に暮れる
どこに何があるか、家族が把握している
一覧を見ながら手続きを進められる
すぐに解約・名義変更ができる
家族が落ち着いて動ける
ここで言う共有とは、パスワードをすべて書き出して渡すことではありません。「どこに、何があるか」を家族が知っていることです。
たとえば、次のようなことから始めてみてはいかがでしょうか。
📝 使っている銀行・証券・サービスの名前を書き出してみる
🤝 その一覧の保管場所を家族に伝えておく
📱 スマホのロックをどう解除するか、家族と一度話しておく
具体的なやり方は、末吉さんの本にていねいに書かれています。気になった方は手に取ってみてください。
「どこに何があるか」を家族と共有することは、デジタルに限らず、相続対策の出発点でもあります。何から手をつければよいのかについては、以前一本の記事にまとめました。今回の記事とつながっているので、よろしければ合わせて読んでみていただけたらうれしいです。
まとめ——現物の財産と同じくらい、デジタルにも目を向けて
今回の出来事で、私は大切なことに気づきました。
デジタル化が進み、セキュリティーがどんどん厳しくなる今の時代。スマホの扱いには、これまで以上に気を配らなければいけません。そして、その厳しさは、残された家族にもそのまま降りかかります。
見える形にしておかなければ、
家族には届かない。
相続の準備というと、土地や建物、預金に目が向きがちです。
これからは、現物の財産と同じように、デジタルの財産にも目を向けていかなければなりません。
実は私、これまでご依頼主さんの財産目録をつくるとき、デジタル資産の確認はご依頼主さんご自身にお願いしていました。
土地や建物は、一緒に一つずつ確認していきます。ところが、有価証券や預金、スマホやネットの中にあるものは「ご本人に見ていただければ」と、それほど意識してこなかったのです。
でも今回、自分のパスワード15個に四苦八苦してみて、その考えは甘かったなと身にしみました。本人でさえこれだけ大変なのですから、残されたご家族ならなおさらです。
これからは、財産目録にデジタル資産の欄をきちんと設けて、サポートしていきます。
あなたのスマホの中にあるもの、ご家族は知っていますか?
財産を書き出すときは、ぜひデジタルの財産も一緒に並べてみてください。
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