相続 × 生前対策 × 孫の学費
相続税の相談に来られた方が、
驚いたように笑いながら、そう言ったことがあります。
生前対策には、使える「時期」が決まっているものがあります。
今日は、孫の学費の話から、
「計画的に動き出す」ことの大切さをお話しします。
「そうなの?早く教えてよ」——ある相談の場面
以前、相続税のご相談を受けたときのことです。
- ご相談に来られたのは、親の相続を考えはじめた子世代の方
- 相談の中身は、将来かかるかもしれない相続税について
- 贈与の特例を説明していくうちに、話がお孫さんの教育資金に及んだ
- お孫さんの学費は、これまで親であるご本人がすべて払ってきた
「おじいちゃん、おばあちゃんがお孫さんの学費を直接払ってあげても、贈与税はかからないんですよ。」
そうお伝えしたとき、その方は驚いた顔をして、それから笑いながら、こう言いました。
「そうなの?早く教えてよ……。」
責めるような言い方ではなく、思わず笑ってしまった、という感じでした。
でも私は、その笑顔を見ながら、少し複雑な気持ちになりました。すでに払い終えた学費は、もう取り戻せないからです。
祖父母が孫の学費を払っても、贈与税はかからない
「お金をあげたら、贈与税がかかる」。多くの方は、そう思っています。
でも、祖父母と孫のように、お互いに助け合う関係にある家族が、生活費や教育費を出してあげる場合は別です。通常必要と認められる範囲であれば、贈与税の対象にはなりません。
学費を祖父母が負担すれば、祖父母の財産は贈与税なしで減り、そのぶん将来の相続財産も小さくなります。子世代の手元には、お金が残ります。
ただし、渡し方にはルールがあります。数年分をまとめて渡して預金に残した場合などは、贈与税の対象になることもあります。また、孫の親に十分な収入がある場合など、判断が分かれる部分もあります。
※税務の詳細は税理士にご確認ください。
これは、特別な手続きのいらない生前対策の一つです。ここまでは、知っている方もいるかもしれません。私が今日お伝えしたいのは、ここから先のことです。
学費が必要になる時期は、限られている
学費は、いつでも払えるものではありません。必要になる時期が、あらかじめ決まっています。
入学金や制服、教材など、まとまったお金が必要になります。大学の入学費用だけで、平均約81万円。
受験を控えた数年間は、塾や講習の費用が大きくふくらみます。
毎年の授業料が、決まった時期に請求されます。大学の在学費用は、1年間で平均約150万円。
高校入学から大学卒業までにかかる教育費は、子ども1人あたり平均で約942万円。幼稚園から高校までの15年間でも、すべて公立で約596万円、すべて私立なら約1,976万円という調査があります。
これだけのお金が、決まった時期に、まとまって必要になるのです。そして、祖父母がこれを負担すれば、そのぶんの財産を贈与税なしで次の世代に移せることになります。
※日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査」(令和3年度)、文部科学省「子供の学習費調査」(令和5年度)より。文部科学省の金額は、学校外の塾・習い事などを含む平均額です。非課税になるのは、必要な教育費をその都度払った分に限られます。
そして、孫が大学を卒業すれば、学費を払う機会はなくなります。
待ってくれない。
先ほどの方も、お孫さんの学費をすでに何年分も払い終えていました。払ってしまった学費を、あとから祖父母の負担に変えることはできません。
つまり、この生前対策は「知っている」だけでは足りないのです。学費が必要になる前に、家族で計画を立てていなければ、使えない——私はそう感じています。
相続の生前対策に「計画」が欠かせない理由
「必要になったら、そのとき親に頼めばいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。
でも、現場で見ていると、そう簡単にはいきません。特に大家さんの家では、次のようなことが起こりがちです。
× 計画がないまま、その時を迎える
- 入学金の請求が来てから、あわてて親に相談する
- 親の財産は不動産が中心で、すぐに出せる現金がない
- ほかの孫とのバランスを考えて、親が迷ってしまう
- 結局、子世代が全部払い、その時期が過ぎていく
◎ 計画的に動き出している
- 孫の進学の時期と、必要な金額が見えている
- 親が、いつ・どれくらい出せるかを把握している
- 兄弟姉妹の間でも、考え方を共有できている
- その時が来たら、迷わず親が直接払える
もう一つ、忘れてはいけないことがあります。親が元気で、自分で判断できるうちでなければ、この方法は使えないということです。
認知症などで判断が難しくなると、親の預金から孫の学費を払うことも、思うようにできなくなります。孫の進学の時期と、親が元気でいられる時期。この二つが重なっている「今」にしか、使えない方法なのです。
教育は、家族が次の世代に手渡せる財産
「孫の学費を出してあげたい」——これは、祖父母が孫を思う、尊い気持ちです。
でも私は、それを一人の孫への応援だけで終わらせるのは、もったいないと感じています。
不動産や預金は、相続のたびに分けられ、形を変えていきます。けれど、教育で身についた力は、誰にも分けられず、減ることもありません。そしてその力は、孫の代から、さらにその先の世代へと受け継がれていきます。
手渡せる、いちばん確かな財産。
家族の長としての視点で見ると、学費の話は「誰の学費を、いくら出すか」ではなく、「この家族の次の世代を、どう育てていくか」という話になります。
ほかの孫とのバランスも、相続全体の設計も、この視点から考えると整理しやすくなる——私はそう思っています。
「財産を渡すだけでなく、次の世代を育てる」という考え方は、大家業の承継でも同じです。物件を渡すだけでは承継は半分しか完成しない、親が元気なうちに一緒に動くことが最高の教育になる——そんなお話を、以前の記事にまとめています。今回の「教育を手渡す」という視点と根っこでつながっているので、よろしければ合わせて読んでみてください。
関連記事魚を与えるな、魚の釣り方を教えよ——大家業を「継がせる」のではなく「育てる」という発想相続の生前対策は、家族ごとに答えが違う
では、あなたの家では、どう計画を立てればよいのでしょうか。
正直に言います。ここから先は、家族ごとに答えが違います。たとえば、こんな問いがあります。
- そもそも、親の相続に相続税はかかるのか
- 孫の学費を祖父母が負担することで、どれくらいの効果があるのか
- 財産の多くが不動産の場合、学費に回せる現金をどう確保するか
- 孫が何人もいるとき、兄弟姉妹の間で公平感をどう保つか
- 生命保険や、ほかの生前対策と、どう組み合わせるか
どれも、家族の財産や構成によって答えが変わります。学費の話だけを切り取って考えるのではなく、相続全体を見渡したうえで、計画の中に組み込むことが大切だと私は思っています。
組み合わせを考えるときの一つの例として、生命保険の活用を整理した記事があります。生命保険も、親が若く健康なうちでないと入れない、あるいは保険料が高くなってしまうことがある——つまり「計画的に動き出す」ことが欠かせない対策です。子世代のあなたが親の保険を確認するときのポイントもまとめているので、よろしければ合わせて読んでみてください。
関連記事【相続と相性が良いもの①】生命保険——親の保険、あなたは把握していますか?子世代のあなたにできること——計画的に動き出す
ここまで読んで、こう感じた方もいるかもしれません。
「税金の話は難しそうで、つい後回しにしてしまう。」
「まだ先のことだと思っていた。」
その気持ちは、とても自然なものだと思います。
でも、孫の進学の話は、相続の話の入り口としてちょうどいいテーマです。「財産をどう分けるか」ではなく、「孫をどう応援したいか」という、祖父母にとってうれしい話だからです。
生前対策の最初の一歩は、とても小さくて大丈夫です。
お子さんの入学や受験が、何年後に来るのか。カレンダーに書き出してみる。
次に実家に帰ったとき、孫の進学の話をしてみる。
学費だけでなく、相続全体の中でどう位置づけるかを考える。
それでも、子どもの側からお金にまつわる話を切り出すのは、勇気がいるものです。親に「財産目当てなのでは」と思われないか——その不安との向き合い方は、以前の記事に書いています。お金の話ではなく、親の人生の話から入ることを大切にしたお話なので、孫の話から始めるという今回の考え方とも重なっています。
関連記事「財産目当て」と思われたくないあなたへ。うまく話を切り出す『家族会議』の始め方。「早く教えてよ」が教えてくれること
知っているだけでは、間に合わない。
使える時期は、待ってくれない。
だから、計画的に動き出す。
よくある質問
Q.祖父母が孫の学費を払うと、贈与税はかかりますか?
生活費や教育費に充てるために、必要な都度、通常必要と認められる範囲で支払う場合は、贈与税の対象になりません。学校などへ祖父母から直接支払う形が、わかりやすい方法です。ただし、ご家庭の状況によって判断が分かれる場合もあります。
Q.学費を数年分まとめて渡してもいいですか?
数年分をまとめて渡し、使わずに預金に残った分や、教育費以外に使った分は、贈与税の対象になることがあります。必要なときに、必要な分だけ払うことが基本です。なお、教育資金をまとめて非課税で贈与できた「教育資金の一括贈与」の特例は、2026年3月31日で終了しています。
Q.相続の生前対策は、いつから始めればいいですか?
親が元気で、自分で判断できるうちに始めることが大切です。孫の学費のように、使える時期が限られている対策もあります。迷ったときは、まず家族の予定や財産の状況を書き出し、全体を見渡すところから始めてみてください。
※税務の詳細は税理士にご確認ください。
まとめ——生前対策は「計画的に動き出す」ことから
祖父母が孫の学費を払っても、贈与税はかかりません。でも、学費が必要になる時期は限られています。
その時期に、家族で計画ができていなければ、この方法は使えないまま過ぎていきます。そして、親が元気で判断できる時期にも、限りがあります。
学費は、家族が次の世代へつないでいくものの一つです。そしてこれは、学費に限った話ではありません。相続の生前対策の多くは、「その時」が来てからでは間に合わないものです。
相続の生前対策は、「計画的に動き出す」ことから始まります。
宮川からのひとこと
我が家にも10歳の娘がいて、塾や習い事に通っています。娘のこれからの進学を考えると、学費が必要になる時期は、思っているよりずっと早くやってくると感じます。
あのときの「早く教えてよ」という言葉は、今も私の中に残っています。知っていれば、計画していれば、選べた道があった。その「もったいない」を、一つでも減らしていきたいと思っています。
お子さんの進学の時期を、一度カレンダーに書き出してみてください。そこが、計画のスタートです。
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