家族会議 × 男女のすれ違い × 聞くということ
——相続の家族会議も、同じすれ違いが!!
一昨日、ぷらっと本屋へ立ち寄りました。
棚に懐かしい本を見つけて、思わず足を止めてしまいました。
『話を聞かない男、地図が読めない女』。
今日は、この本から思い出したことと、
相続の家族会議の話をしたいと思います。
25年前のベストセラーが、いまも刺さる理由とは?
ご記憶にある方も、多いのではないでしょうか。
『話を聞かない男、地図が読めない女——男脳・女脳が「謎」を解く』
アラン・ピーズ/バーバラ・ピーズ 著 藤井留美 訳 主婦の友社(2000年)
内容を細かく覚えているわけではないのですが、ひとつだけ、はっきり記憶に残っている学びがあります。
女性は共感してほしいだけなのに、男性はすぐ解決策を出したがる。
奥さまが「今日、こんなことがあって大変だったの」と話す。と、ご主人はすかさず「それは、こうすればいいんじゃないか」と答える。すると奥さまは、なぜか不機嫌になる。ご主人のほうは、よかれと思って答えたのに、どうして怒られたのかわからない・・・。
脳の違いがどうこうという説明の部分については、いまの科学ではいろいろ議論もあるようです。ただ、この「かみ合わなさ」の描写だけは、当時読んで思わず唸った記憶があります。
相続の家族会議でも、まったく同じことが起きている
本屋でこの背表紙を見た瞬間に思い浮かんだのが、家族会議の場面でした。
たとえば、お父様が「あのアパートは、俺が一から建てたんだ」と話し始める。子供世代は、よかれと思ってこう返します。「修繕費もかかるし、そろそろ売却も考えたら?」
正しいことを言っています。親身に考えているからこそ、出てきた言葉です。それなのに、お父様は黙ってしまう。
お父様が求めていたのは、解決策ではなかったのだと思います。「この建物を建てたときの苦労を、わかってほしい」——たぶん、それだけだったのではないでしょうか?
相談に来てくださる方から、こんな声もよく聞きます。
「兄の言い分もわかるんです。わかるんですけど、話し合いというより、それぞれが言いたいことを言って終わった感じでした。」
誰も手を抜いていません。みんな真面目に参加しています。それなのに、終わったあとに残るのは、なんとも言えない壁というか、距離というか・・・。
そしてこれは、男女の話ではないと思っています。家族会議では、立場が入れ替わることもよくあります。相続の場面では、誰もが「話を聞かない男」になりうる。私はそう感じています。
家族会議の場で、空気が変わった瞬間
家族会議でよく起こるシーンをご紹介します。
序盤は、話がかみ合いません。お父様がこれからについて話し、長男さんがご自身の考えを述べ、次男さんがまた別の意見を出す。それぞれが真剣で、誰も間違ったことは言っていない。それなのに、話が積み上がっていかないのです。
しばらくして、長女さんがふと、こう言いました。
「お父さんは、あのアパートだけは手放したくないってことだよね?」
その瞬間、お父様の表情が変わります。それまでどこか身構えていた方が、ふっと力を抜いて「そうなんだよ」と。
そこから、話が動き出します。
長女さんが言ったのは、新しい提案でも、解決策でもありません。お父様が話したことを、そのまま言葉にして返しただけです。それだけで、場の空気が変わります。
あの一言に、何が起きていたのか——信頼関係をつくる3つの条件
長く相続の現場に関わってきて、信頼関係というのは3つがそろったときに生まれるものだと感じています。
👂 1. 聞く
相手の話を、さえぎらず最後まで聞く。自分の意見は、いったん横に置いておく。
💭 2. 理解する
言葉の内容だけでなく、その奥にある事情や気持ちまで受け取る。「なぜこの人はそう言うのか」というところまで届く。
🤝 3. 伝わる
理解したことが、相手の側にちゃんと届いている。「この人は自分のことをわかってくれている」と、相手が感じている状態。
聞いて、理解して、それが伝わっている。ここまでそろって、はじめて信頼関係になる。私はそう思っています。
そして、いちばん抜け落ちやすいのが3つ目です。聞いたかどうかは自分でわかります。理解したかどうかも自分でわかります。でも、伝わっているかどうかだけは、自分の中では確認できない。それは相手の中にしかありません。
「うん、わかった。」——この一言は、聞いた合図ではあっても、理解が伝わった合図にはなりません。言った側は伝えたつもりでいて、言われた側は何も受け取っていない。家族会議のすれ違いは、だいたいこの隙間で起きているように感じています。
逆に、信頼関係ができると、今度は反対のことが起きます。伝わったと感じた相手は、こちらの話を聞く姿勢になるのです。順番が逆だと、これは起こりません。自分の話を届けたいなら、先に相手の話を届いた状態にする。遠回りに見えて、実は、これが一番早い道だと感じています。
やること自体は、シンプルです。
「お父さんは、この家だけは残しておきたいと思っているんだね。」
「兄さんが心配しているのは、費用のことなんだね。」
受け取ったものを、そのまま言葉にして返すだけ。それだけです。
それなのに、家族会議を家族だけでやるのは難しい
ここまで読んで、「それくらいならできそうだ」と思われたかもしれません。ところが、いざ実家の食卓やあらたまった家族会議の場で、となると、これがなかなかできないのです。
私も相続相談の場で、何度も聞いてきました。「わかってはいるんです。でも、あの場では言えないんですよ」と。
家族会議では、全員が当事者です。中立の立場で聞ける人が、その場に一人もいません。自分の取り分やこれからの生活がかかっている状態で、相手の話をまるごと受け止めるのは、正直に言って難しいことだと思います。
そして何より、近すぎるのです。実の親子や兄弟で「お父さんが言いたいのは、こういうことだよね」と改まって言うのは、照れくさい。その照れくささが、最初のひと言を止めてしまいます。
これは、家族の仲が良いか悪いかとは関係ありません。近い関係だからこそ、難しい。近い親族間では「関係性の甘え」という精神的な力が作用する。私はそう思っています。
この「近すぎる家族」という壁については、以前に書いた記事でも触れています。親御さんに話を切り出せない理由として、まったく同じことが起きているように感じています。
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「財産目当て」と思われたくないあなたへ。うまく話を切り出す『家族会議』の始め方。
第三者が入ると、その一言が生まれる
私が家族会議に同席させていただくとき、やっていることは特別なことではありません。
お一人ずつの話を聞いて、内容を整理して、「お父様がおっしゃっているのは、こういうことですね」と返す。ご長男の話を聞いて、「心配されているのは、この部分ですね」と返す。この記事の前半でお伝えした3つを、順番にやっているだけです。
ただ、ひとつだけ違うところがあります。利害関係のない人間が言うと、同じ言葉でも角が立たない。
ご家族の誰かが言うと「なんでお前が仕切るんだ」になってしまう場面でも、第三者が言えば、ただの確認として受け取ってもらえます。照れくささもありません。仕事場で感じる、あの人が会議を仕切るととても話がまとまる「会議を仕切る達人」、あの感じです。
そして、一度その場に信頼関係の土台ができると、あとはご家族だけで続けられるようになります。「ああ、こうやって聞けばいいのか」と、みなさん自然に真似をされるのです。私の役割は、その最初のきっかけを作ることだと思っています。
第三者が入る家族会議の進め方については、こちらの記事に詳しくまとめています。
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「そろそろ、相続の事しっかり話し合っておきたい・・。」——【家族会議支援の薦め】
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家族会議で起きていること
聞いただけでは、届かない。
理解しただけでも、届かない。
伝わって、はじめて信頼になる。
まとめ——相続の家族会議は、聞くことから始まる
家族会議というと、何をどう決めるかに目が向きがちです。でも、決めるより前に必要なことがあると思っています。
聞いて、理解して、それが相手に伝わっていること。この3つがそろうと信頼関係が生まれ、そのあとの話し合いが驚くほどスムーズに進みます。逆にここが抜けたまま中身の議論に入ると、どれだけ時間をかけても、なぜか前に進みません。
そして、この信頼関係を家族だけでつくるのは、思っている以上に難しい。難しいと感じたときには、間に人を入れるという方法があります。
次に家族で顔を合わせるとき、自分が「話を聞かない男」になっていないか、少しだけ意識してみてはいかがでしょうか。
宮川からのひとこと
偉そうに書いてきましたが、正直に言うと、私自身が「話を聞かない男」です。娘の話を聞きながら、つい「それはこうしたら?」と口を挟んでしまって、あとで反省することがあります。まだまだ、だめですね・・。
家族会議に同席させていただくたびに思うのですが、場の空気を変えるのは、いつも立派な意見ではありません。「お父さんが言いたいのは、こういうことだよね」——たったそれだけの一言です。ただ、その一言が、家族の中からはなかなか出てこない。だから私のような人間が呼ばれるのだと思っています。ご家族だけで難しいと感じたら、気軽に声をかけてみてください。
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