生命保険 × 相続対策 × 子世代ができること
でも、どんな保険で、受取人が誰なのかは知らない。
そんな方は、きっと少なくないと思います。
今日から全4回、「相続と相性が良いもの」をシリーズでお届けします。
第1回は、生命保険についてお話しします。
シリーズのはじめに——相続と「相性が良いもの」とは
相続の相談を受けていると、「これがあったから、うまくいった」と感じる対策がいくつかあります。
どれも特別なものではありません。でも、相続と組み合わせたときに、驚くほど力を発揮する。私はそれを、相続と「相性が良いもの」と呼んでいます。
このシリーズでは、その中から4つを選んでご紹介します。
「分けにくい」「納税資金がない」に効く。今回のテーマです。
親が判断できなくなったときに備える。
現金・不動産とは違う、もう一つの残し方。
大家業を、次の世代へ渡す仕組み。
読んでいただきたいのは、親の相続を「そろそろ考えなきゃ」と感じている子世代のあなたです。
なぜ生命保険は、相続と相性が良いのか
相続の相談を受けていると、生命保険の話が出てこない日はないくらいです。
それだけ生命保険は、相続のいくつもの悩みに、同時に効く道具だと私は感じています。
その理由は、生命保険の死亡保険金が持つ、ある特徴にあります。
「受取人のお金」になる。
預金や不動産は、亡くなった方の「遺産」です。だから、相続人全員で話し合って分け方を決めるまで、自由に動かすことができません。
一方、死亡保険金は、受取人に指定された人が自分で請求して受け取るお金です。遺産分割の話し合いを待たずに、指定された人の手元に届きます。
この「受取人のお金になる」という一点が、相続のさまざまな場面で効いてくる。私は、ここに生命保険と相続の相性の良さがあると思っています。
生命保険を「この人を守りたい」という想いを届ける手段として捉えた記事を、以前に書いたことがあります。今回は仕組みの話が中心になりますが、その出発点にある「想い」の部分は、こちらの記事に詳しく書いています。よろしければ合わせて読んでみてください。
関連記事財産より大切なものを託す——「誰に・何を・どう託すか」から始まる相続対策では、具体的にどんな場面で効くのか。私は大きく3つの「効き目」があると考えています。
効き目①「分けにくさ」を解く——実家を守りながら公平に分ける
まずは、よくあるパターンの事例をわかりやすく数字をならしてご紹介します。
- 父は3年前に他界。今回、母が亡くなった
- 相続人は、兄と妹の2人
- 財産は、実家 1,500万円と預金 500万円。合計 2,000万円
- 兄は家族と一緒に、この実家に住み続けている
兄妹2人で分けるなら、法律上の目安は1人1,000万円ずつです。
兄は実家に住んでいるので、実家は兄が継ぐのが自然です。でも、実家だけで1,500万円。妹の分の1,000万円を、どうやって用意すればいいのでしょうか。
「でも、妹に払えるような貯金はない。」
「預金の500万円じゃ、とても足りない。」
こうなると、選択肢は「兄が自分の財布から払う」か「実家を売ってお金にする」か。どちらも、兄にとっては苦しい選択です。
ここで生命保険が力を発揮します。
× 生命保険がない
- 兄が実家を相続すると、妹に渡すお金が足りない
- 兄が自腹を切るか、実家を売るしかない
- 「お兄ちゃんばかり」「妹は分かってくれない」と、気持ちがすれ違う
◎ 生命保険がある
- 母が、受取人を兄にした1,000万円の保険に入っていた
- 兄が実家と預金を相続し、受け取った保険金から妹へ1,000万円を渡す
- 2人とも1,000万円ずつ。実家も守れる
このように、遺産を受け取った人が、ほかの相続人にお金を渡して調整する分け方を「代償分割」といいます。不動産のように分けにくい財産が多い大家さんの家では、とても大切な考え方です。
保険金は兄の手元にすぐ届くので、その資金で妹に渡すお金を用意できる。生命保険は、分けられない財産を「分けられる形」に変えてくれる道具なのです。
受取人を「誰にするか」で、結果が変わる
ここで一つ、大切なポイントがあります。もしこの保険の受取人が、兄ではなく妹だったらどうなるでしょうか。
保険金は「受取人のお金」なので、遺産の外に置かれます。つまり妹は、保険金1,000万円を受け取ったうえで、さらに遺産からも自分の取り分を求めることができてしまうのです。兄の資金不足は、まったく解決しません。
同じ1,000万円の保険でも、受取人の指定ひとつで、家族を助けることにも、すれ違いを深めることにもなります。
遺留分への備えにもなる
遺言で「実家は兄に」と決めておいた場合も、同じ考え方が使えます。
兄妹には、遺言があっても最低限受け取れる「遺留分」があります。妹から遺留分を求められたとき、兄が保険金を受け取っていれば、その資金で支払うことができます。死亡保険金は、原則として遺留分を計算するときの財産に含まれないため、支払いの原資として使いやすいのです。
※保険金の額が遺産全体に比べて極端に大きい場合などは、例外的に計算に含まれることがあります。個別の判断は弁護士などの専門家にご確認ください。
効き目②「税」の負担を軽くする——非課税枠と納税資金
2つ目の効き目は、相続税にまつわるものです。
死亡保険金には「非課税枠」がある
親が契約者として保険料を払い、親自身にかけていた保険を、相続人である子どもが受け取る。この形であれば、死亡保険金には相続税の「非課税枠」が使えます。
死亡保険金の非課税枠
500万円 × 法定相続人の数
兄妹2人なら 1,000万円まで非課税
同じ1,000万円でも、預金のまま残せば相続税の計算に入りますが、死亡保険金として受け取れば、非課税枠の分だけ課税の対象から外れます。
相続税がかかるご家庭では、この差がそのまま「家族の手元に残るお金」の差になります。非課税枠の限度額まで保険を活用しておくことは、相続対策の基本の一つだと私は思っています。
相続税の「納税資金」になる
相続税は、原則として亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に、現金で納めます。
ところが大家さんの家は、財産の多くが不動産です。相続税はかかるのに、払うための現金がない——これは、珍しい話ではありません。
死亡保険金は、遺産分割の話し合いを待たずに受取人へ届くお金です。納税の期限に追われて、大切なアパートや土地を急いで売る。そんな事態を避けるための備えになります。
ちなみに、先ほどの兄妹の例は財産が2,000万円なので、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数=4,200万円)の範囲内に収まり、相続税はかかりません。それでも生命保険が家族を助けたのは、効き目①の「分けにくさ」があったからです。
生命保険は、節税のためだけの道具ではない。ここは、ぜひ覚えておいていただきたいところです。
※税務の詳細は税理士にご確認ください。
効き目③「確実に」届ける——受取人指定と、もしもの備え
3つ目の効き目は、「届けたい人に、確実に届く」ということです。
誰に渡すかを、親自身が生前に決めておけます。話し合いの結果に左右されずに、指定した人へ届きます。
予定より早く「もしも」が来ても、保険は契約した額を家族に残してくれます。これが保険の本来の役割です。
親に借金が多く相続放棄をした場合でも、受取人のお金である死亡保険金は受け取ることができます。
借入があるケースは、大家さんの家では特に大切です。アパートローンが残っていて、財産よりも借入のほうが多い——そんなときに相続放棄を選んでも、死亡保険金は家族の手元に残ります。
※相続放棄をした人は、受け取った保険金に非課税枠を使えません。
保険で財産が「増える」こともある
保険の種類や加入した年齢によっては、払い込んだ保険料の合計より、受け取る保険金のほうが多くなることがあります。
また、外貨建てや変額保険のような「運用型」の保険を活用すれば、運用の結果として受け取る額が増えることもあります。
ただし運用型は、為替や運用成績によって、払った額を下回ることもあります。「増えることもある、減ることもある」——この両面を理解したうえで選ぶものだと、私は考えています。
注意点——「入っているだけ」では機能しない
ここまで読んで、「うちの親も保険に入っているから大丈夫」と感じた方もいるかもしれません。
でも、正直に言います。保険は、相続対策として設計して契約しておかないと、思ったようには機能しません。
◎ 相続対策として機能する
- 契約者・被保険者・受取人の組み合わせを確認している
- 受取人が「誰に何を渡すか」と合っている
- 保険金額が、分割や納税に必要な額と合っている
- 家族構成が変わったら、受取人を見直している
× 機能しない
- 契約の形によって、相続税ではなく所得税や贈与税がかかる
- 受取人が一人に偏り、不公平感の火種になっている
- 必要以上に入って、生活資金を圧迫している
- 受取人が、離婚した元配偶者や先に亡くなった人のまま
特に見落としやすいのが、契約の形です。たとえば、子どもが保険料を払って親にかけた保険を子どもが受け取ると、相続税ではなく所得税の対象になります。父が保険料を払って母にかけた保険を子どもが受け取ると、贈与税の対象になります。
どちらも、非課税枠は使えません。同じ金額の保険金でも、契約の形で手元に残る額が大きく変わるのです。
そしてもう一つ。生命保険は、親が若く健康なうちでないと入れない、あるいは保険料が高くなってしまうことがあります。「そのうち考えよう」と思っているうちに、選択肢が狭まっていく——これが、生命保険の難しいところです。
※契約形態ごとの課税の詳細は、税理士にご確認ください。
子世代のあなたにできること——親の保険を、一緒に確認する
ここまでのお話を、あなたの親に当てはめてみると、どうでしょうか。
「受取人が誰になっているのかも、聞いたことがない。」
「保険証券がどこにあるのかも、わからない。」
もし一つでも当てはまるなら、そこが最初の一歩になります。
保険の確認は、相続の話の入り口としてちょうどいいテーマだと私は感じています。財産の分け方のように身構える話ではなく、「もしものとき、家族が困らないように」という確認だからです。
ちなみに、親が亡くなったあとや、認知症などで判断が難しくなったときに、家族が保険契約の有無を調べられる「生命保険契約照会制度」という仕組みもあります。ただ、受取人や金額が今の家族に合っているかどうかは、親が元気なうちにしか見直せません。
とはいえ、子どもの側から保険やお金の話を切り出すと、「財産目当てだと思われないか」と不安になるものです。その気持ちとの向き合い方は、以前に一本の記事にまとめています。お金の話から入らないことが大切、というお話なので、切り出す前に読んでみていただけたらうれしいです。
関連記事「財産目当て」と思われたくないあなたへ。うまく話を切り出す『家族会議』の始め方。そして、いきなり本題に入るのではなく、「来月、保険のことを少し確認させてほしい」と前もって伝えておく。それだけで、親の受け止め方はずいぶん変わります。
話し合いの場をどう準備するかについては、うまくいく家族会議と失敗する家族会議の違いを整理した記事があります。「最初の家族会議でやる3つのこと」も書いているので、親の保険を確認する場づくりにも、そのまま使っていただけると思います。
関連記事うまくいく家族会議vs失敗する家族会議——なぜ、「家だと話せないことも喫茶店なら話せる」のか?生命保険が教えてくれること
保険は、お金を残すための道具ではなく、
「誰を守りたいか」を形にする道具。
その想いは、元気なうちにしか形にできない。
まとめ——生命保険は「想いの届け方」を決める道具
生命保険が相続と相性が良い理由は、死亡保険金が「受取人のお金」になることにありました。
その特徴が、3つの効き目につながっています。
① 実家のような分けにくい財産を、公平に分けられる形に変える。
② 非課税枠と納税資金で、税の負担を軽くする。
③ 届けたい人に、確実に届ける。
ただし、それは相続対策として正しく契約されていればこそ。受取人と契約の形を確認し、家族に合った形に整えておくことが欠かせません。
親の保険を知ることは、親が家族をどう守ろうとしているかを知ることです。
宮川からのひとこと
保険の話というと、どうしても「いくら入るか」「税金がいくら減るか」という数字の話になりがちです。
でも私は、受取人の欄に書かれた名前こそ、いちばん大切なところだと思っています。それは、親が「この人を守りたい」と考えた答えだからです。
私自身、今年50歳になり、娘のこれからを考えることが増えました。だからこそ、親の保険を確認することは、親の想いを確認することでもあると感じています。
次に実家に帰ったとき、「保険って、どうなってるの?」と、気軽に聞いてみてください。
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