金(ゴールド) × 資産を守る × 次の世代へ託す
預金は、インフレや円安で、じわじわと目減りしていく。
では、何を残せばいいのか——
シリーズ「相続と相性が良いもの」、第3回は金(ゴールド)です。
今日は、金が相続と相性が良い理由と、残すときの注意点をお話しします。
シリーズ第3回——現金でも不動産でもない、相続のもう一つの残し方
このシリーズでは、相続の相談を受ける中で「相続と組み合わせると力を発揮する」と感じてきたものを、4つご紹介しています。
「分けにくい」「納税資金がない」に効く。
親が判断できなくなったときに備える。
現金・不動産とは違う、もう一つの残し方。今回のテーマです。
大家業を、次の世代へ渡す仕組み。
第1回の生命保険は、親が亡くなったあとに「分けにくさ」や「納税資金」の悩みを解く道具でした。今回の金は、財産そのものの価値を守りながら次の世代へ渡す道具です。役割が違うので、第1回をまだ読んでいない方は、合わせて読んでいただけたらうれしいです。
関連記事【相続と相性が良いもの①】生命保険——親の保険、あなたは把握していますか?第2回の家族信託は、親の判断能力が落ちても、アパート経営を止めずに続けるための仕組みでした。どちらも「親が元気なうちにしか整えられない」という点で、今回の金の話とも共通しています。まだ読んでいない方は、こちらも合わせてどうぞ。
関連記事【相続と相性が良いもの②】家族信託——親が認知症になったら、アパートはどうなる?「金でも買って残すというのはどうですか?」——ある大家さんとの会話
まだ私が管理会社で働いていたころの話です。担当していた大家さんから、アパートの売却について相談を受けました。
その大家さんのご家族は、お子さんもお孫さんも女性だけ。誰もアパートの賃貸経営に興味を持っていない、とのことでした。
「このアパートを売って、何を残してあげればいいんだろうか」——そんなご相談でした。
管理を任されていた身としては、正直、売ってほしくない気持ちもありました。それで半分冗談のつもりで、「金でも買って残すというのはどうですか?」と言ったんです。
すると、まさかの返事が返ってきました。「それは、いいかもしれないね」と。
結局そのときは、売却の判断は持ち越しになり、管理もそのまま続くことになりました。私はほっとしたのを覚えています。
その後、私が会社を離れたので、あの大家さんがどうされたのかはわかりません。でも、大家さんが金に対して、驚くほど前向きだったことは、今でも強く印象に残っています。
アパートを継ぐ人がいない。かといって、売ったお金を預金で置いておくのも不安。そんなとき、「金」という選択肢は、大家さんにとって意外と自然に受け入れられるものなのだと感じた出来事でした。
私が金を手放して、今でも後悔していること
私はもともと金が好きでした。
手元に余裕ができると、金製品と有価証券を少しずつ買ってきました。
ところが、当時は金の価格がなかなか上がらなかったこと、そして事業の資金が必要になったこともあって、持っていた金を売ってしまったんです。
とても後悔しています。
その後の値上がりを見ると、「あのまま持っていれば」と思わずにはいられません。
今は趣味が高じて、古物商の登録をして、金の買取りや、ご家族の記念に残す純金商品のオーダー製作もしています。仕事として金に接していると、金は「時間をかけて価値を守る資産」だということを、改めて実感します。
金(ゴールド)が相続と相性が良い5つの理由——インフレ・円安に強く、劣化しない
では、なぜ金は相続と相性が良いのか。不動産の仕事に携わって23年。相続診断士として大家さんのご相談を受けてきた中で、私は大きく5つの理由があると考えています。
物価が上がると、同じ現金で買えるものは減っていきます。金は、物価の上昇に合わせて価格も上がりやすい資産です。
金は世界共通の価値を持ち、国際的にはドルで取引されています。円の価値が下がると、円で見た金の価格は上がりやすくなります。
建物は古くなり、修繕が欠かせません。金は錆びることも朽ちることもなく、何十年たっても、そのままの姿で次の世代へ渡せます。
小さく分けて持っておけば、不動産と違って、相続人の人数に合わせて分けやすくなります。
毎日の価格が公表されているので、「いくらの財産なのか」で家族の意見が割れにくいのも特徴です。
大家さんの財産は、不動産も預金も、どうしても「円」に偏りがちです。円だけに頼らない財産を一部持っておくことは、財産の価値を守りながら次の世代へ渡すための備えになる——私はそう思っています。
預金だけで持っていると、インフレや円安でなぜ目減りするのか。そして、不動産という実物資産にはどんな強みがあるのか。そのあたりは、以前に一本の記事にまとめています。今回の金の話の土台になる内容なので、よろしければ合わせて読んでみてください。
関連記事円安・インフレ時代に、不動産資産をどう守り・引き継ぐか10年前に1,000万円を金に替えていたら——預金との比較
ここで、わかりやすく数字で比べてみます。たとえば10年前、アパートを持つ大家さんが、手元の1,000万円をどう置いておいたかで、今どれくらい違うのか。
× すべて円預金のまま
- 金額は、ほぼ1,000万円のまま
- この10年、金利はほとんどつかなかった
- 物価が上がった分、実際に買えるものは減っている
◎ 1,000万円を金に替えていた
- 2016年10月:1グラム 4,593円で、約2.18kg
- 2026年10月:1グラム 23,487円
- 計算上の価値は、約5,100万円
10年間の金価格の変化(田中貴金属 店頭小売価格・税込)
4,593円/g(2016年10月13日)→ 23,487円/g(2026年10月13日)
約5.1倍
※売買時の手数料や、売るときの買取価格との差は含めていない、あくまで計算上の比較です。過去の値動きは、将来の価格を約束するものではありません。
なぜ、ここまで金の価格が上がったのか
背景の一つにあるのが、世界の中央銀行による金の買い増しです。
各国の中央銀行は、国の財産である外貨準備として、これまで米ドルを多く持ってきました。ところが近年、ドルに偏りすぎることへの警戒から、その一部を金に替える動きが続いています。いわゆる「ドル離れ」です。
2022年から2024年まで、中央銀行は3年続けて年間1,000トンを超える金を買い入れました。2010〜2021年の平均(年473トン)の2倍以上です。
中央銀行への調査では、73%が「5年後、外貨準備に占めるドルの割合は下がる」と答えています。
同じ調査で、76%が「5年後、外貨準備に占める金の割合は上がる」と答えています。
※出典:ワールド・ゴールド・カウンシル「Gold Demand Trends: Full Year 2025」「Central Bank Gold Reserves Survey 2025」。2025年の購入量は863トンで、前年より減ったものの、長期平均を大きく上回っています。
いま、金を選んでいる。
なぜ、国の財産を預かる中央銀行が、ドルだけに頼らない備えとして金を持とうとしているのか?
大家さんの財産を「円」だけに頼らずに守るという考え方と、根っこは同じだと私は感じています。
とはいえ、こうした背景があるからといって、この先も上がり続けるとは限りません。私自身、価格が上がらない時期に我慢できず、売ってしまった経験があります。
それでも、同じ1,000万円でも、どんな形で持っていたかで、次の世代に渡せる価値がこれだけ変わることがある。この事実は、知っておいて損はないと思っています。
金の買取りやオーダー製作の仕事をしていると、最近は、子どもや孫のために金を買う方が増えている——そんな感覚があります。
今年の初めには、銀座の田中貴金属の本店前に、開店の何時間も前から金を買う人、売る人が行列をつくり、整理券が配られたと聞きます。
金を持つことは、特別なことではない。
アパートやマンションを持つように、金を持つ。
金は、値が上がる、下がるの話ではなく、
未来に託す資産として選ばれているのだと思います。
金を残すときの注意点・デメリット
ここまで金の良いところをお伝えしてきましたが、もちろん注意点もあります。金は「買えば安心」というものではありません。
上がることもあれば、下がることもあります。今年も、4月に1グラム2万6,000円台をつけたあと、10月には2万3,000円台まで下がっています。
アパートのように家賃が入るわけでも、預金のように利息がつくわけでもありません。持っているだけでは収入になりません。
不動産のような評価の引き下げはなく、亡くなった日の価格で評価されます。金に替えても、節税にはなりません。
自宅の金庫や貸金庫に眠ったままだと、相続人が存在に気づかないことがあります。申告漏れにもつながります。
売却益には税金がかかります。また、一定額を超える売却は、買取業者から税務署へ情報が届く仕組みがあります。
自宅で保管すれば盗難の心配があり、貸金庫を使えば費用がかかります。
※相続税の評価や売却時の課税など、税務の詳細は税理士にご確認ください。
金は、相続対策として財産のすべてを置き換えるものではないと私は考えています。不動産や預金を中心にしながら、その一部を金で持っておく。そのくらいの距離感が、相続との付き合い方としてはちょうどいいのかもしれません。
子世代のあなたにできること——「親の金」を家族で把握しておく
注意点の中で、子世代のあなたに特に知っておいていただきたいのが、「家族が把握していない」というリスクです。
「昔、記念に買ったものがあるとは聞いたけど……」
「どこにしまってあるのかは、まったく知らない。」
金は、通帳も郵便物もない財産です。持ち主が話していなければ、家族は存在に気づけません。
金を持っているなら、どこに、どれくらいあるのか。それを家族が知っているだけで、相続のときの手続きはまったく違ってきます。
「どこに何があるかを、家族が知っている状態にしておく」という考え方は、スマホの中に眠る財産について書いた記事でもお伝えしました。金のような「見えない財産」にも、まったく同じことが言えるので、合わせて読んでみていただけたらうれしいです。
関連記事そのスマホ、家族は開けますか?——パスワード漏洩で気づいた「デジタル遺品」への備え金が教えてくれること
価値は、形を変えずに受け継がれていく。
でも、その存在を知らなければ、
家族の手には届かない。
まとめ——金は、価値を守りながら次の世代へ渡す財産
金が相続と相性が良いのは、インフレや円安に強く、永久に劣化せず、分けやすく、価値がわかりやすいからです。
アパートを継ぐ人がいない大家さん、財産が円に偏っている大家さんにとって、金は相続対策の中の「もう一つの残し方」になりえます。
一方で、価格の上下や、利息や家賃を生まないこと、相続税の評価が時価であること、家族が把握していないリスクなど、注意点もあります。財産の一部として、家族と共有しながら持っておくことが大切です。
金は、持っていることを家族が知っていて、はじめて「残せる財産」になります。
宮川からのひとこと
金を売ってしまったことは、今でも少し悔しいです(笑)。価格が動かない時期に、待ちきれなかったんですよね。
でも、あの経験があるからこそ、金は「すぐに増やすもの」ではなく、「時間をかけて価値を守り、次の世代へ渡すもの」だと思うようになりました。
あの大家さんが「それはいいかもね」と言ったときの、少しほっとしたような表情を、今でも思い出します。継ぐ人がいなくても、家族に何かを残してあげたい——その想いは、どの大家さんにも共通しているのだと思います。
親が大切にしているものが何なのか、一度ゆっくり聞いてみてください。きっと、思いがけない話が出てきますよ。
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